18. 携帯って見つめててもかかんないって知ってる?なんでかけねェの?

 喧嘩をした、というと語弊がある。
 元々常に喧嘩状態のようなものだったし、一発触発という言葉はまさしく自分たちのためにあるような言葉だった。顔をあわせれば互いに凶器が飛び出したし、そうなれば無傷でいられない。後者は、自分ひとりのようだったけれど。
 とにかく、常にそんな状態だった自分たちが、言い合い、という程度の低いそれに、喧嘩、という文句をつけていいのか、正直迷っていた。
 内容はどうでもいいことで、本当にどうでもいいことだったらしく覚えてもいない。ただ、いつものように頭にくることを言われ、互いに武器が取り出されて、何度か打撃を食らった。それは覚えている。
 最後に、去り行く黒い背中がひどく不機嫌だったことも。
 一体何がどうしてこんなことになってしまったのか。
 原因も理由もなにもかも分からないまま、日が暮れても明かりひとつ点けずに呆然としていた。


 探せば要因は山のように出てくる。
 十代目に対する態度、暴力、言葉、そして強さ。何もかもが、気に入らないといえば気に入らない。
 それなのに、じゃあどうして、と言われてしまうと、何も言い返せなくなる。自分でもそれが不思議でたまらない。どうして俺は、あんなやつと一緒にいるんだろう。
 十代目のようにやさしい言葉一つかけてくれるわけではないし、山本のように張り合いのある相手というわけでもない。だからといって姉のようにただひたすら恐怖の対象というわけでもなく、リボーンのように厳しいが尊敬の対象でもない。
 自分にとってあの男が一体どういう立場で、どういう位置にある人間なのか、考えれば考えるほど分からない。
 どうでもいいじゃないか、と一人ぼやく。
 そんな風に、位置づけですらきちんとできていない相手が一人、ただ自分の目の前から去った。静かに、背を向け、一言も発さず。
 ただそれだけのことと、幼い頃から手を振られることに慣れていた自分には、割り切るのは得意だったはずで。

 それなのに、なぜ、どうして。
 疑問符だけが思考を埋め、指先ひとつ、視線ひとつ自分の自由にならない。
 こんな感情が自分の中にあるとは思わなかった。
 こんな感情を持ちたいなんて、望んでいなかったのに。

「ねぇ」
 唐突に、巡る思考に声が飛び込んでくる。
 自由にならないからだが、反射で後ろを振り返った。背後に人がいるという警戒心なのか、ただその声に反応しただけなのか、それとも、声の主のせいなのか。
「携帯電話って、見てるだけじゃかからないよ。そんなことも知らないの?」
 かつん、と靴が音を立てる。ああそういえばこいついつも革靴だよな、なんて、今更な事に気づく。
「蓋を開けて、番号を押して、通話を押す。簡単じゃない」
 響く靴音。近づく影。
 まだ少しだけ残っている不機嫌が、ふん、と放たれる冷笑にこめられている。
「かけてみなよ、どうしてかけないの?」
 静かに音がやむ。見上げた視界には、暗いはずの室内なのに、その白い肌が綺麗に浮かび上がっていて。
 ああ、まるで発光しているようだ、なんて、なんてファンタスチックな。
「…必要なくなった」
「へぇ?」
 面白そうに零された冷笑に、少し笑う。


「電波よりお前のほうが早かったから」

こっちに続きます。雲雀が未だに掴み難くて。